相続専門相談、相続専門研修を、このたび、全国初の取り組みとして、新たに実施する強い動機として、弁護士こそ相続問題の担い手であり、弁護士がかかわらないことで、多くの市民の方が涙されていることを知ったということがあります。弁護士にしか出来ないことがあるのです。
税理士も、司法書士も、ましてや、相続コンサルタントなどの無資格者であればなおさらですが、相続において紛争が生じた場合、弁護士法により、弁護士以外が取り扱ってはいけないのです。
多くの良心的な税理士や司法書士の方は、相続にかかわられている中で、紛争が起きたら弁護士にシフトして、また、弁護士も、税法や登記について、税理士や司法書士と連携して対応しています。
しかし、「紛争が起きて弁護士に頼むと、いつまでたっても解決しないよ」、「高い弁護士費用がとられるよ」、などと言って、紛争がないものとして、無理やり当事者を抑え込んでしまう、税理士、司法書士の方や、相続コンサルタントの方、中には、いらっしゃるのです。
家庭裁判所の代理権は、司法書士(もちろん、税理士や相続コンサルタントにも)にはありません。弁護士しか代理人になれません。調停も審判も、弁護士しかなれないのです。そして、最近の非常に多くの相続事件が、弁護士と連携をとらずに、無理やり抑え込んだ結果、事案が紛糾して、どうにもならない状態になって、家庭裁判所に持ち込まれ、弁護士と裁判官、調停委員の先生方と、苦慮しながら対応しているのが実態です。
相続問題には、弁護士しか出来ないことがあるのです。もっといえば、相続問題は、弁護士が解決しなければならない問題なのです。
弁護士に頼むと、弁護士費用が高額になるというのは、必ずしも正しくないように思います。
弁護士に相談しないため、本来主張できる寄与分や特別受益、遺留分などの権利を主張せず、法的に誤った遺産分割協議が行われたり、弁護士照会をはじめとする適切な調査を行わないために、遺産隠しを見破ることが出来なくなったりして、弁護士費用を払うよりも何倍もの損失を受けることになっている例がたくさんあります。
確かに、弁護士の報酬が高いといわれていることについて、謙虚に反省すべきところも多いと思います。きちんと、報酬について説明しない弁護士とトラブルになった例もあり、こういった点について、きちんと振り返り、反省すべきだと思います。
しかしながら、一方で、相続問題に携わっている弁護士以外の方からの、「弁護士報酬は高い」という批判の中には、まやかしの部分があると思っています。
弁護士以外の方で、相続について取り扱っている方の報酬内容について、注意して確認をしていただいた方が良いと思います。
もちろん、多くの司法書士や税理士の先生方は、誠実に、相続に関する、登記手続や申告手続をしていただいており、私たち弁護士は、その先生方の連携なくして相続問題の対応は出来ません。多くの、そういった先生方の費用をみても、本当に誠実さが表れた費用であり、本当に頭が下がります。尊敬もしています。
しかしながら、中には、相続問題の解決そのものに対し報酬を請求されている税理士、司法書士の方もいらっしゃいます。税理士、司法書士の資格をも、お持ちにならない相続コンサルタントの方の報酬は、税務申告、登記手続をされているわけではありませんので、完全にこれにあたるといわざるを得ません。こういった方々は、紛争性のないケースを取り扱って報酬を得ているのです。もしくは、紛争性があって、弁護士法違反の事案を、紛争性がないとして、報酬を得ているのです。
弁護士法違反という点はおいておいたとしても、そういった方からの「弁護士報酬は高い」という批判には、疑問を感じます。
相続税の申告手続や登記手続の費用以外の、相続問題を解決したことの報酬を請求される方は、弁護士法違反ではないことを前提とすると、あくまでも、紛争性のないケースについて、報酬を請求していることになります。
弁護士は、紛争性のないケースにおいて、弁護士以外の方の報酬と比較しても、むしろ、低いというのが実感です。
すべてとはいえないのかもしれませんが、紛争性のないケースにおいては、弁護士は、相談料や文書作成料等の報酬の請求をすることがあるとしても、それとは別に、いわゆる「高額な請求」をしていない方が、ほとんどではないでしょうか。
弁護士は、紛争になった場合は、その紛争の程度や経済的利益に応じて報酬を請求しますが、紛争性のない事案においては、相談料や遺言の作成料は別として、さらに、これとは別に報酬を請求しない方が多いように思われます。そのため、紛争性がない事案については、弁護士以外の方が請求する報酬の方が高いのではないかと思われます。
特に、相続コンサルタントの方は、紛争性のない相続事案で、生業を得ているのであれば、紛争性のない事案において、おのずから報酬を高額にしないといけないということになるのだと思いますが、このような報酬の定め方には、強い疑問を持っています。
もちろん、すべてがそうではありませんが、特にインターネット上に見られる報酬例を拝見したり、「コンサルタントに、ここまではらった」、「税理士、司法書士の先生に、いくらいくら払った」、という額やお話しを聞いたりすると、「紛争性がない事案で、この程度の対応で、こんなに報酬とっているんだ」と思うことが多いのです。
良心的な税理士や司法書士の先生方の素晴らしい活動を拝見し、尊敬もしているのですが、相談をされる市民のみなさまは、こういう状況でもあるということを考えて、しっかりと、報酬について、依頼する弁護士(もちろん、税理士や司法書士の先生方に対してもそうですが)に、事前によくご相談すべきだと思います。
紛争になった場合は、もちろん、これとは別に報酬を請求することになりますが、それは、紛争が生じて困難な状況を解決する必要が生じたためであり、この場合の弁護士費用と、紛争の生じていない弁護士以外の方の報酬とを単純に比較していることは、非常に問題があると思います。
弁護士に頼むと、何年も解決せず、長期化するということをいわれる、コンサルタントの方や税理士、司法書士の方がいますが、それは、大きな間違いです。
弁護士は、むしろ、紛争をよく知っており、泥沼になるとどれだけ大変なことになるのか、紛争になった場合の唯一の解決対応が出来る者として、実感しています。それゆえ、極力、紛争にならないよう導きますし、そのために、遺言や成年後見制度等をどのように利用すればいいのかということを知っています。
弁護士に頼むから長期化するのではなく、弁護士に頼まないから、長期化するというのが実感です。
単に税務上の優遇措置だけのことを考えて、養子縁組をしたり、マンションを建設したりして、結果、入居率が悪く、争いの種になったり、無用な養子縁組により、家族関係がぎくしゃくしてしまったりするケースが多いのです。
まして、弁護士法違反の疑いが強い、無資格者(弁護士、司法書士、税理士以外)である相続コンサルタント等の方に、相続の相談をすることは、避けるべきです。相続は(結果、紛争に至らなかったとしても)、ほとんどが、紛争に至る恐れが高く、無資格者が対応できるものではないものだと考えています。
なによりも大切なことは、紛争を防止して、いわゆる「相続」を「争族」にしないためには、どういった場合に紛争になるかを熟知している、弁護士にこそ、ご相談いただくべきだと思います。
弁護士以外の方による相続対策の多くは、却って、紛争性を高めるものが多く、弁護士が、その「後始末」をさせられている、という思いで対応することも多いのです。誤った相続対策がされなければ、紛争にならなかったのでは、と思うと、本当に残念です。
弁護士は、紛争を期待していたり、紛争を無理やり起こす存在では決してありません。多くの弁護士は、紛争にならないように、極力紛争防止のためのアドバイスをし、それでも、やむを得ず紛争になった場合には、早期解決のため、尽力しているのです。そのような、弁護士の存在や気持ちも、知っていただけると、本当に嬉しいです。
しかし、今、「相続」というワードで検索すると、弁護士作成のページが上位になかなかヒットしません。
弁護士であるということだけで、市民は相続のことは弁護士に相談するものだなどと、あぐらをかいてだけなのかもしれません。この現状を、謙虚に受け止め、しっかりと、研鑽をつみ、依頼者の声に丁寧に耳を傾ける姿勢が十分であったのか、振り返ってよく考えることが、何より大切なのではないかと思います。
誰よりも、反省すべきなのは、われわれ弁護士自身であり、そして、市民の皆様に謙虚に専門性の高い相続についてのリーガルサービスを提供しなければならない、誤った対応のために紛争になってしまっている市民を救い、紛争にならないような適切なアドバイスをしなくてはならない、という想いから、この相続専門相談や相続専門研修に取り組むべき、と思っています。