相続専門相談に登録するために行われる相続専門研修。その実際に行われた研修の内容は、どのようなものだったのでしょうか。
相続とは、証拠の確保が最も重要になる分野です。相続でもめる典型的なケースは、亡くなった親の遺産を、子ども二人が争い、親の介護をしてきた長男が遺産を隠しているのではないかと、次男が疑う、というようなものではないでしょうか。介護を行ってきた長男は、何を失礼なことを、何にも介護の苦労もしらないくせに、という感情も芽生え、トラブルになっていきます。
長男が遺産を隠すということが、実際行われた場合、それをどのように明らかにしていくのかということが問われるのですが、長期間の介護や親の長い人生の中で行われることですので、相続は、他の法律問題以上に、証拠の探索といっても、量が多く、複雑です。
そこで、どこに何を求めれば、相続問題に有用な証拠が集められるのか、という研修を行いました。
相続に特化した証拠の探索について書かれた文献は見当たらず、そこで、研修チーム員は多くの法律事務所にアンケートをとり、実際、どのように探索しているのか、聞きに行きました。また、金融機関や自治体に、どのような手続きで、どのような証拠が得られるのか調べました。その調査結果をもとに資料を作成し、チーム員が講師に質問をしていく形式をとりました。弁護士法23条により、弁護士にのみ認められている弁護士照会の制度の、相続における利用の具体例も、弁護士会調査室の方からご教示いただきました。
この研修は、資料価値としても、高いものだと思いますが、その調査結果をもとに、講師と議論をする過程は、非常に興味深いものでした。
名古屋家庭裁判所の裁判官の方から、寄与分、特別受益において、実務的にどのように認められるのか、その具体的な基準や実例についてご講義いただきました。
裁判官の方は、正確に、公平におっしゃられようとされる意識が強く、これは、裁判官の職責からすると当然なことだと思います。そのため、講義も、抽象的・一般的な講義となりがちではあります。
しかしながら、弁護士としては、さらに具体的な場面において、それぞれ認められるのかや、その基準が何かという、ぎりぎりのところを知りたいと思います。そこで、チーム員と裁判官、そして、経験豊富な弁護士を交え、何度も打ち合わせを重ね、具体的にどこまでなら、お話しいただけるのか、何度も深いところまで確認し、其のうえで、研修を実施しました。
寄与分や特別受益について、抽象的な理論的なところを超えた、具体的なケースにおいてどのように考えたらよいのか、はっきりしないところも多いのですが、これをしっかり掘り下げて、議論を深めました。
当日おこなわれた、ディスカッションにおける、裁判官と弁護士の熱い議論が、忘れられないとおっしゃる方が、非常に多い、充実した研修となりました。