相続専門研修の内容について

 

愛知県弁護士会が実施する相続専門相談においては、その相談員として登録するために、毎年、相続専門研修を受講し続けることが必要です。

ここで、具体的に、どのような研修が行われているかを紹介します。

 

研修は、通常の講師が一方的に情報を伝えるというものでは、受講者が本当に聞きたい内容とズレが生じることがあります。また、その内容を単に講師任せというのではなく、研修センター専門部会の相続専門研修チームが研究発表をし、その結果を踏まえ、講師とディスカッションをする形式をとることで、本当に意味のある、聞きたい研修を実現できるよう工夫しています。

 

また、単に、講義を受け身で聞くだけでなく、能動的に参加して専門性を高めるため、事例検討会をゼミ形式で行い、具体的な事例を、参加者で議論するという研修を行っています。

 

研修チームも若手・ベテランを交え、今後の専門研修を継続的に実施できるよう、チーム員自身の研鑽・スキルアップを図り、研修を充実させるため、研修に研究発表の場を設けたり、対外的なセミナーの講師を担うなどの工夫を行っています。

 

いずれも、準備は非常に大変ではありますが、今までの研修の規模をはるかに超える受講者が集まり、実際に受講した方によるアンケート結果は非常によく、今後も、よりよい研修を行ってまいりたいと思っております。


相続専門相談に所属しない弁護士も含む愛知県弁護士会所属会員は、1800名です。このうち、この研修参加者は、毎回250人〜400人。所属会員の20%が参加するという、非常にたくさんの方が参加されている研修です。当会の行なう研修の中でも、最大規模の研修となっております。

 

愛知こそ相続の専門家の弁護士を多数有する地域と評判になり、全国から依頼が来るという時代を夢見て、努力して参りたいと思っています。

 

令和2年1月20日相続専門研修

①相続財産管理人の実務上の留意点

講師として名古屋家庭裁判所 野々山優子裁判官、細江英昭書記官にて、相続財産管理人として気をつけるべき実務上の留意点について、講演いただきました。
相続財産管理人としての手続、法的根拠のほか、財産調査や財産保全(不動産、自動車)、債務超過事案における葬儀費用の支払い、長期化事案についてなどの解説がなされました。

②相続財産管理人と不動産の国庫帰属に関する最新動向

講師として、財務省東海財務局管財部 国有財産調整官の石田浩二様、同国有財産総括専門官の山下裕也様にご講演いただきました。

相続人がおらず、特別縁故者に分与することもない相続財産は、最終的に国庫に引き継がれます。
そもそも、その引き継ぎ先として財務局の方々が、どのようなことをされているのか、また、相続財産管理人として気をつけるべき点はないか、実務上の問題点等を踏まえ、講演いただきました。

令和元年7月18日相続専門研修

① 平成後期の重要判例を振り返る

昨今,最新の法制・判例について,裁判所から代理人の理解不足が散見されるとの指摘があるところです。相続専門相談を担当する弁護士としては,最新の法制と最新の判例を理解することが不可欠であるところ,平成後期には,最高裁で,生命保険金の特別受益性に関する判断をはじめとした相続の現場に大きな影響を与える規範を数多く示され,かかる最高裁の規範を前提に,下級審での具体的な事案の蓄積がなされてきました。

 

そこで今回は,令和の新時代を迎えることを機に,名古屋地方裁判所の裁判官と名古屋家庭裁判所の裁判官をパネリストとしてお招きし,田中健人会員を加えた3名によるディスカッション形式で,平成後期の重要判例を振り返り理解を深めました。

 パネリスト 名古屋家庭裁判所 柳本つとむ裁判官

       名古屋地方裁判所 谷池厚行裁判官

       愛知県弁護士会専門部会 田中健人委員

 コーディネーター 同 平松達基委員

 

② 遺産分割における定まった価額のない財産の評価

遺産分割には様々な財産が登場します。その中には預貯金などのようにその価額が一見して明らかな財産もあれば,価額が必ずしも明らかではない財産もあります。皆様のなかにも,遺産分割の場において,こうした定まった価額のない財産の評価が争点となった経験をされた方は多いのではないのでしょうか。

  そこで,今回の研修では,定まった価額のない財産の代表例といえる不動産及び株式その他有価証券に関し,それぞれの専門家及び名古屋家庭裁判所裁判官をパネリストとしてお招きして,武田鉄平会員がコーディネーターを務めるパネルディスカッションを行いました。パネルディスカッションでは,これらの財産の評価方法だけではなく,その根底にある考え方や評価を変動させる要因としてはどのようなものがあるかについても議論いたしました。

 パネリスト 名古屋家庭裁判所 柳本つとむ裁判官

       日本ヴァリュアーズ株式会社 小田賢治不動産鑑定士

       かがやきコンサルティング株式会社    岡本和也

 

 コーディネーター 愛知県弁護士会専門部会 武田鉄平委員

平成31年4月19日相続専門研修

① 相続事案における弁護士会照会の活用法

愛知県弁護士会調査室調査室員を務める弁護士 磯貝 隆博(磯貝・宇佐美法律事務所)先生にご講演いただきました。

弁護士の証拠収集方法として重要な弁護士会照会(弁護士法23条の2)は、相続事案においても相続人の確定や相続財産確定などの場面で利用されることがあります。他方、相続案件においては、相続人であれば弁護士会照会を利用することなく収集できる証拠は多数存在します。また、弁護士法23条の2後段は「申出があった場合において、当該弁護士会は、その申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができる。」と定めており、必ず申立が認められるわけではありません。講師から、弁護士会照会の制度、相続事案において弁護士会照会を利用すべきケースとその必要がないケースなどについて、具体例を交えながらお話しいただきました。

 

② 相続と登記

司法書士 筒井 孝志先生から、最近の判例・先例が登記実務に及ぼしている影響を中心とした相続に関する登記事例等をご紹介いただき、相続人の確定・被相続人の同一性・遺産分割協議・相続分譲渡・判決による中間省略登記について、事例に即した着眼点や留意点、代理人活動等における注意点をなどをお話いただきました。

平成31年2月19日相続専門研修

事例検討会

 弁護士が、20人ずつのグループにわかれ、それぞれ、事例検討会を行いました。今回は、相続についての実務的な事例について取り上げました。 いわゆる清算型の遺言、言語障がいがある方の遺言について、作成上の留意点等を含む、様々な、論点について、議論をしながら、経験を交流しました。

  相続専門相談も6年目になり、議論の内容も極めて専門的なものとなりました。

 

平成31年1月25日相続専門研修

① 「遺言作成の実務上の留意点」

八杖友一弁護士(第ニ東京弁護士会所属)に、遺言作成の実務上の留意点について、ご講演をいただきました。

受任にあたっての留意点や、高齢者・障がいのある人の遺言、遺言事項・付言事項、遺産承継の方法、遺留分を踏まえた遺言作成、予備的遺言、遺言執行を踏まえた遺言作成などの点で、注意すべき事項について解説いただきました。

② 「遺言を巡る諸問題についてのパネルディスカッション」

八杖友一弁護士に加えて、愛知県弁護士会研修センター運営委員会専門部会のチーム員である近藤雅樹弁護士、森川聖也弁護士をパネラーとして、遺言を巡る諸問題についてのパネルディスカッションを行いました。

遺言作成のためにさまざまな気をつけるべき点について、実務上の経験に基づき、議論いただきました。

平成30年10月30日相続専門研修

相続法改正が裁判実務・銀行法務に与える方法

民法改正に造詣の深い、窪田教授にご講義いただき、次の方々にパネルディスカッションをしていただきました。

神戸大学大学院法学研究科 窪田充見教授

名古屋家庭裁判所 柳本つとむ判事 
名古屋地方裁判所 三橋泰友判事
三井住友信託銀行 笹川豪介判事
愛知県弁護士会 竹内裕美弁護士
同                       須田 悠花子弁護士
銀行法務21  2月号3月号にこのパネルディスカッションが掲載されますので、是非、ご参考に願います。

平成30年7月18日(水)相続専門研修(230人参加)

① 必見!裁判官と学ぶ相続放棄・限定承認

柳本つとむ名古屋家庭裁判所裁判官、村松教隆名古屋地方裁判所、愛知県弁護士会富田隆司弁護士にて、坪井晃一朗弁護士をコーディネーターとしてパネルディスカッションをおこないました。

概要は次の通りです。

① 限定承認について

名古屋家庭裁判所においては、年間30件程度の限定承認の事件で受理されています。限定承認について、名古屋地方裁判所ではどの程度、取り扱われているのでしょうか。

限定承認の申立てのフローチャートで確認、注意事項の解説。

限定承認申立て受理の審判後、5日以内(ないし相続財産管理人選任されている場合は10日以内)に官報広告の掲載を代理人弁護士が行わないといけません。

配当については、破産と違い、弁護士の責任において実施することになり、裁判所が運営するものではないことになります。

配当時に知られていない債権者がいる場合はどうすればよいのでしょうか?返済の義務が残るというアドバイスの方が固い説明に思われます。

限定承認については、破産と異なり、厳密な手続きではないので、債務超過が見込まれる場合については、破産手続を選択する必要もあります。

債権者側の立場で、限定承認申立て後、放置されている場合、どうすればよいか。この場合は、強制執行も検討すべきということになります。


② 相続放棄について

家庭裁判所での相続放棄の対応。
原則書類審査。
相続開始後3ヶ月経過しているが放棄できる事実が認められるか。法廷単純承認事実がないか。を判断します。
却下すべき明らかな事実がない場合は受理すべき、とされています。

亡くなって3ヶ月たてば、相続放棄が受理されないのですか?→亡くなったことを知ったのが遅れる場合もあります。亡くなったことを知っても、相続財産が全くないと信じて、これに相当な理由がある場合にはよいという最高裁の判決があります(最高裁59年4月27日)。

積極財産はしっていたが、負債を知らなかった場合はどうか?最高裁の相続財産が全くないと信じたことになるのか?価値の僅少な衣服等の財産を知っていた場合にも救済される下級審裁判例があります。後から大きな債務があると知った場合は、この最高裁の枠組みとは異なるので、難しい問題があります。

ただ、家庭裁判所の基準は、却下すべき明らかな事由がない場合は、受理すべきとなっているので、放棄の申立てだけはしておくべきではないかという意見もありました。

熟慮期間の伸長については、回数の制限はないのですご、放棄、承認、限定承認の判断がつく程度に把握できればよいので、3ヶ月ないし6ヶ月の期間を最大3回程度伸長する。限定承認という制度があるので、負債の範囲がわからない事情があるかをある程度検討するための期間であることを意識すべきだと思います。

法廷単純承認にあたると放棄できません。処分ならだめで保存行為ならよいことになります。

法定単純承認にあたる場合について
相続放棄の申立書に、遺産分割をして兄が不動産の取得をするが、負債も兄がすべて負うとしていたが、自分にも債権者から請求がきたとかいてある場合は?

被相続人の預金口座から自動引き落としされていた場合は?

相続財産の自動車に乗っていた場合は?フェラーリやランボルギーニのようなスーパーカーのような場合はどうか?

5万円以下のタンスを廃棄した場合は?

葬儀費用を被相続人の預金から払った場合は?初七日は?四十九日は?

相続財産の農園を維持するために被相続人の肥料を使用した場合は?


② なぜあなたの特別受益の主張は認められないのか〜裁判官に聞いてみよう

① 講義
名古屋家庭裁判所柳本つとむ裁判官に、講義をいただきました。
1 特別受益の定義、概念、持戻し制度趣旨
2 特別受益の種類
 (1) 遺贈
 (2) 婚姻もしくは養子縁組のための贈与
 (3) 生計の資本としての贈与
3 性質上特別受益となるかどうかが問題となりやすいもの
4 持戻しをすべき特別受益の範囲など
5 特別受益の評価基準時
6 持戻し免除の意思表示
7 超過特別受益
8 使途不明金・名義預金
9 遺留分減殺請求事案における特別受益に該当する贈与

 

② パネルディスカッション

柳本つとむ裁判官と、愛知県弁護士会研修センター専門研修部会員である久保明愛弁護士、小嶋啓司弁護士とのパネルディスカッションをおこないました。
特別受益にあたるのか
結納金100万円?
結納金100万円と挙式費用200万円では?
昔は親が結婚式を行うもの。今は、当人が出すべきものとされている社会の実態があるのでは?(親が当然出すなら特別受益ではない)
高額な嫁入り道具は?
学費について、長男は高卒後就職、次男は進学で次男のみ400万円もらった場合?
長男次男は大学進学。長男は奨学金がえられ返済。次男は奨学金が得られず400万円親からもらった場合?
扶養義務の観点を重視するのか、相続人間の公平を計るのが重要なのか?
昔は大学にいくこと自体が特別。今は、皆が行くことが普通なのではないか?(普通のことなら扶養の範囲で特別受益ではない)
長男次男の大学の学費はすべて親が負担。さらに長男の子(孫)に学費400万円を負担した場合は?
持ち戻し免除の黙字の意思表示があると認められる場合は?被相続人の職業を孫が引き継ぐといった事情がある場合は贈与ではない方向になるのでは?
仕送りについて
定職につかない理由が、障害があるなら扶養の範囲。働くのが嫌の場合なら扶養の範囲ではなく特別受益にあたるのでは?
毎月10万円の場合は、額が低く特別受益に当たらない可能性が強いのでは?
毎月50万円の場合は、使い道。生活費の場合は扶養で、遊びの場合は贈与にあたるのでは?
一括120万円と月々10万円とは違うのか?月々の方が生活費と言いやすいのでは?
定期預金の場合は?すぐ解約して使った場合や取っておいた場合は?
遺言に「Yに援助した金銭は相続財産に加えなくていい。」と明示してあったが、生前Yと、疎遠で持ち戻しの意思表示をなす動機がない場合はどうか?
遺産分割調停では贈与はなかったといいながら、不当利得返還請求訴訟では贈与を認めるというケースについてはどうなるのか?

平成30年5月22日相続専門研修(100人参加)

事例検討会

 100名の弁護士が、20人ずつのグループにわかれ、それぞれ、事例検討会を行いました。今回は、相続についての実務的な事例について取り上げました。 その他遺産の評価や遺留分についての検討を含む、様々な、論点について、議論をしながら、経験を交流しました。

  相続専門相談も5年目になり、議論の内容も極めて専門的なものとなりました。

 

平成30年4月27日相続専門研修(200人参加)

愛知県弁護士会の竹内裕詞弁護士と、小木曽正人公認会計士・税理士、丸山洋一郎司法書士とでパネルディスカッションを行っていただきました。

① 家族信託の活用事例ー基礎編ー

 

 信託とは、財産(信託財産)を持っている人(委託者)が、自分が信頼できると思う人(受託者)に財産を託して、自分が決めた目的(信託目的)に沿って、自分が利益を与えたいと思う人(受益者)のために、財産の管理処分をしてもらう仕組み、を指します。
 家族信託とは、信託の制度を利用して、自分自身や家族の生活を支援したり、財産の承継をしたりするための枠組み、を指します。
 家族が受託者になり、業として信託事務を行うものではなく、家族信託を隠れ蓑として、受託者が丸投げをして、実質的に業として信託事務を行えば違法となるなどの注意点の指摘がありました。
 後見や遺言等には制約があり、後見ではできない財産の運用・処分を行ったり、遺言ではできない変更不能な遺言や後継ぎ遺贈を行ったり、株式(自社株)の信託により、当事者だけの合意で議決権と財産的権利の分離を行うことが出来る場合があります。
 その他、家族信託利用の際に留意すべきことや信託口口座設置の注意点、信託についての課税関係の説明がなされました。

② 家族信託の活用事例ー応用編ー

次の各実例について、家族信託について、注意点などを検討しました。

 

実例①(自宅の売却に備える)
相談者(配偶者は死別、子は2人)は、自宅と現金500万円を所有しているが、将来、相談者が施設入所や入院した場合には、自宅を売却処分したいという意向を持っているケース。

 

実例②(変更できない遺言)

 

実例③(底地の信託)
会社社屋の底地は、会長の個人所有であるが、相続により底地が共有になることを避けたいケース。

 

実例④(受益者連続型信託)
Aが、まずAが死亡した時点ではBに承継させ、その後Bが死亡した時点でCに承継させたいと希望しているケース。

平成30年3月2日相続専門研修(100人参加)

事例検討会

 100名の弁護士が、20人ずつのグループにわかれ、それぞれ、事例検討会を行いました。今回は、相続についての実務的な事例について取り上げました。 使途不明金への対応について、具体的な事例をもとに、様々な、論点について、議論をしながら、経験を交流しました。

 

平成30年1月23日相続専門研修(260人参加)

 

大阪弁護士会の藤井伸介弁護士を迎えて講義とパネルディスカッションを行いました。

① 審判で解決しがたい「使途不明金」への対応

(1) 講義

 

 

昭和の時代はとにかく調停を申し立てれば取り扱われてきたが、現在は審判の準備という意味合いが強い。審判で判断できない事項は調停では3回くらい付き合ってくれるが、それ以降は訴訟をしてくださいと言われてしまう。審判についても、調停段階で準備がなされて審判は早期に判断されてしまう。付随問題はいわば切り捨てられてしまう運命にある。そのなかで、どのように対応すべきかの講義をいただいた。

 

特に、最高裁H28.12.19の大法廷決定では生前に引き出された預貯金については遺産分割の対象外になっている。そのため、預貯金を生前に引き出そうという動きが強くなってしまい、ますます使途不明金の比重が大きくなってしまうという懸念からの様々な問題について講義をいただいた。

(2) パネルディスカッション

 

続いて藤井伸介先生に加え相続専門研修チーム員の森澤史郎弁護士と安田昂央弁護士にてパネルディスカッションを行いました。

 

●生前の使途不明金問題 

不当利得か不法行為かは?訴訟上立証できる事実がどうかによるが、不法行為を主にしていけば、不当利得は大体立証されるようにもおもわれるがどうか。 

H28.12.19最高裁大法廷前では生前に特別受益をもらった人は、預金は遺産の範囲でなかったので預貯金を請求できるが、大法廷後は特別受益を考慮されるので預貯金の請求がその分できなくなる。そのため、生前に預貯金を引き出すという、横領という刑事事件に発展しかねない動きが助長されるのではという危惧はないのか。 

使途不明金についてはどのような流れで行うべきか。遺産分割調停申し立て前に訴訟で解決すべきなのかどうか。

使途不明金が解決されず遺産分割がなされる。その後訴訟しても贈与の主張がなされる。調停の遺産分割で使途不明金が特別受益で評価されず処理されてしまうという懸念についてどうすべきか。

●引出行為

名義預金や借用預金で口座履歴の開示は難しいがどうすべきか。預金債権確認訴訟等で裁判所の調査嘱託をどこまでしてもらえるか。具体的事案での状況。 

●引出権限

不法行為の請求原因か抗弁かといった立証責任をどう捉えるかの問題について。

●使途

実際は使途により権限が変わるので、被告に使途を明らかにするよう裁判所に釈明を積極的にしてもらえると良いが実際はどうか。

●相続開始後の使途不明金

 H28.12.19大法廷後も影響しないということに。法制審議会で議論しているのは、その人が取得したとみなすという制度を作ろうと議論されている。実務上は先行取得論によって、先に遺産を取得したということを前提に処理されることはあるのか。

② 遺産分割の付随問題での対応〜相続債務・葬儀費用その他の付随問題

 

続いて藤井伸介先生に加え相続専門研修チーム員の四橋和久弁護士と菊田絵美弁護士にてパネルディスカッションを行いました。

●葬儀費用・墓地埋葬関連費用

審判対象外だか遺産分割調停の中で一緒に議論してもらえるのか。

葬儀費用はどこまでか。名古屋高裁裁判例H24.3.29での葬儀費用の定義、死者の追悼儀式に要する相続税基本通達13-4.5の解説。墓地の取得費は名古屋高裁の基準では当たるのか?

大阪地裁H14.7.3葬儀の後に仏壇の購入費は遺族がこれを使用するとこは自然な行為であるので、被相続人の貯金を解約し仏壇の墓石の法定単純承認に当たるとは断定できないとされている。この判例を一般化できるのか?

●葬儀費用負担者

喪主負担説、相続人共同負担説、相続財産負担説、慣習・条理説のいずれの説になるのか? 

●祭祀承継者

民法897

被相続人による指定→慣習→家庭裁判所

遺産分割調停で3回くらいで解決できないと調停申し立てしてほしいと言われるがどうすすめるべきか。

申し立てると、期日を一緒に開いてもらい、併合審判してもらうこともできるのか。

遺言に書いてあればはっきりする。そうでない場合に、被相続人の指定や慣習の有無について争う場合は訴訟事項(祭祀主催者の確認訴訟)になるのか?

最初から家庭裁判所の調停をおこし、被相続人の指定による祭祀主催者の審判を出せるという裁判例についてはどうか?

(福岡小倉支部H6.9.14)

●祭祀財産

祭祀の飾り:特定して写真を出して目録をつけて審判の対象にして、評価もつける 

 →祭祀財産と主張すると裁判所は訴訟でやってくださいといわれてしまうというリスクについて

●遺産収益の分配

賃料など。

遺産と別の財産になり各共同相続人の相続分に応じた確定的な分割債権(最高裁判例H17.9.8)についての、解説。

この相続分は具体的相続分を排除する意味なのかどうか。

法定相続分だけでなく指定相続分も含まれると最高裁判例解説に記載されていることについて。

賃料収入がいくらか何人いるかわからない。そういう時に訴訟をする場合のやり方。

●事務管理費用や税務申告費用について相殺の抗弁を出された場合

最高裁H22.1.19全額自己の収入として納税した場合、他人の事務管理にはならないとの判例解説

●占有利益について 

家を無償使用している場合、占有利益として、自己の持分割合の賃料相当額損害金の請求ができる(H12.4.7最高裁判決)

ただし、相続財産の場合は、生前から使用貸借関係があるのなら遺産分割完了までは無償で使用させる合意があったと推認される(最高裁H8.12.17)といった判例の解説。

●収益の確保について 

駐車場の帰属が明らかにならず賃料を供託してもらうことになり、みんな面倒なので解約してしまった

→遺産収益の散逸を避けるために生前にしておくべきことは?

●金銭債務と相続財産 

金銭債務は相続財産とは別(最高裁S34.6.19)

紛争にならない場合は一緒に解決出来るが、そうでない場合、調停で解決つきにくい。事業用財産での債務は事業用財産の承継者のみが負担すると文書で確認したりする。

ただ、審判の場合は債務は無視されるのか。抵当権の不動産も無視されるのか。

相続人間の協議は債権者には対抗できない(H21.3.24最高裁)との判例解説。

金銭債務が連帯債務の時は、相続分に応じて承継する。実際の審判の場合、連帯債務が差し引かれるのか。連帯債務が訴訟になるとか他の連帯債務者が破産するとかがなければ、連帯債務を無視して審判がなされる可能性があるのでは?不可分債務や保証債務も審判では無視されるのか。

債務超過している相続の際に、金融機関は全員の合意をしてほしいということで、遺産や事業の債務は妻が全部負担するとして遺産分割協議をして銀行に届けたが、破産した場合はどうなるのか?銀行は相続人に請求してしまうのか?

限定承認の制度や法制審議会での議論状況

 

平成29年9月8日相続専門研修(100人参加)

事例検討会

 100名の弁護士が、20人ずつのグループにわかれ、それぞれ、事例検討会を行いました。今回は、相続についての実務的な事例について取り上げました。

 預金2000万円、アパート2億円(M銀行の抵当権付き)、債務(アパートローン)1億円(債権者M銀行)が遺産としてあると亡くなったAから聞いていたXについての相談。Xの葬儀費用を父の預金から支払う方法はないか。銀行口座が凍結されたあとの対応方法。銀行による簡易支払の現状、仮分割仮処分についてなど、平成28年12月19日最高裁大法廷判決を踏まえた対応方法について議論しました。
  その他遺産の評価や遺留分についての検討を含む、様々な、論点について、議論をしながら、経験を交流しました。
  相続専門相談も4年目になり、議論の内容も極めて専門的なものとなりました。

平成29年7月20日相続専門研修(350人参加)

① 遺留分の実務

名古屋地方裁判所民事第2部部長 片田信宏裁判官に講義をしていただいたあと、パネルディスカッションを同片田信宏裁判官と

名古屋家庭裁判所家事第2部柳本つとむ裁判官、愛知県弁護士会民事弁護委員会委員長石川恭久弁護士、同専門研修部会員福田智洋弁護士にて行いました。
名古屋地方裁判所民事第2部部長 片田信宏裁判官の講義について
次の各点についての解説をいただきました。判例を踏まえた、実務上の基礎的なところから応用的なところまで、詳しくわかりやすく、ご講義いただきました。
遺留分権利者と遺留分率(民法1028条)
遺留分算定の基礎となる財産の基本的な計算式(民法1029条1項)
被相続人が相続開始時に有していた財産
贈与財産
相続債務の控除
評価の基準時
複数の遺贈・贈与と減殺の順序
共同相続人に対する遺贈の場合
その他具体的事例に基づき解説いただきました。
遺留分計算シート
愛知県弁護士会専門研修部会員田中健人弁護士から遺留分計算シートについての説明がなされました。
パネルディスカッション
パネルディスカッションを同片田信宏裁判官と名古屋家庭裁判所家事第2部柳本つとむ裁判官、愛知県弁護士会民事弁護委員会委員長石川恭久弁護士、同専門研修部会員福田智洋弁護士にて行いました。次の各点についての議論がなされました。
1 遺留分減殺請求権の行使方法
普通郵便の内容証明郵便ではなく、特定記録と内容証明郵便と両方で送ると、到達した日時の記録化と送った内容の両方が証明できるという、講師方法についての手法が紹介されました。
2 遺留分減殺請求に関する紛争解決手続
家事事件手続法257(調停前置)、39(審判事項)ではない。直接地裁に持ち込んだ場合は、遺産の範囲の確定に長時間要することに?調停をした場合の解決の割合は?訴訟の場合の和解の割合は?
鑑定の有無の調整の状況は?価額弁償の申し出がある場合は相続開始時点と口頭弁論終結時の二時点必要なので、費用はいくらくらい?
調査嘱託は?(調停の場合、訴訟の場合)
情報がなく遺産分割か遺留分分割かどちらかがわからない場合、どうすればよいか?
3 遺留分減殺請求における注意点
寄与分の主張?
価額弁償を被告が主張していないのに原告が主張している場合?
鑑定をすると請求の趣旨は最後にならないと決まらない?
特別受益について遺言の付言にのみ書いてあるだけで、立証されたと言えるか?
4 遺言無効確認との関係
主位的請求で遺言無効、予備的請求で遺留分減殺請求をする場合は?
遺言の有効性に争いがある場合にも遺産分割調停を起こす意味は?

② 相続預貯金の理論と実務についてのパネルディスカッション(350人参加)

平成28年12月19日最高裁判所大法廷決定により、従前の判例が変更され、預貯金が遺産の範囲に含まれるという判断がなされました。
この判例について、パネルディスカッションを名古屋家庭裁判所家事第2部柳本つとむ裁判官、第一東京弁護士会及び三井住友信託銀行法務部の笹川豪介弁護士、愛知県弁護士会民事弁護委員会委員長石川恭久弁護士、同専門研修部会員熊田憲一郎弁護士にて行いました。
最高裁決定の影響が及ぶ範囲
普通預金、通常貯金、定期貯金は含まれる。定期預金、定期積金は平成29年4月6日最高裁判所判決がでた。
 
投資信託は?
貸金債権は?交通事故の損害賠償請求権等は?
金融機関が相続預貯金の取り扱いに及ぼす影響
 
預貯金口座からの入出金がとまる
→誰が払込権限があるか不明確。止める根拠は?
住宅ローン等の自動引き落としの場合は?
投資信託で入金がある場合は?別段預金とは?
委任契約は死亡することで終了する。付随するものは?例えば取引履歴を請求された場合は?
相続税対策で住宅ローンを組んで賃貸。賃料は別段預金にして、ローンの返済が止まってしまう場合は実務上どうしているのか?相続人代表口座とは?行方不明の人がいる場合は?
最高裁判所の決定によると賃料は分割債権になって預貯金に入金されるとその瞬間に準共有になり遺産の対象となるという法律構成になるのか?
調停の段階では、単に賃料を遺産の範囲にするというのではなく、別のものとして、そこから固定資産税や経費を控除して、別途分割するという解決も当事者の意思の中で、今回の最高裁判所の決定の中でもありうるのではないか?
 
一部の相続人による預貯金払戻請求への対応。原則相続人全員の合意による。例外に金融機関が払い戻しに柔軟に払い戻しに応じることはあるのでは?簡易方式とは?(各金融機関ごとの比較)
 
仮分割仮処分
 
どういう手続?名古屋管内での申し立ての実情は?
必要性や緊急性はどのような場合に認められるのか?提出すべき資料は?断行の仮処分になるので必要性について具体的な判断が必要になるのか?
老人ホームへの介護費用は?生活費は?葬儀費用は?固定資産税や相続税のための場合は?
 
仮払い制度創設の可能性
 
改正民法の法制審議会で検討されている仮払い制度創設の可能性はどうか?
 
預貯金の払戻しと遺言との関係
 
「〇〇銀行の××口座は法定相続分に従って相続させる」という遺言がある場合は?
「葬儀費用は〇〇銀行の××口座から払うものとする」という遺言がある場合は?
 
遺産分割事件の処理に及ぼす影響
 
1 既に完了している遺産の分割は?
2 最高裁判所決定前に相続が開始した遺産分割は?
3 預貯金の払い戻しがなされず預貯金が未分割のまま残っている場合は?
4 一部の共同相続人が、法定相続分による払い戻しを受けている状態で残りの預貯金が未分割のまま残っている場合は?
 
 
遺産分割の付随問題〜使途不明金・不明金について
 
準共有関係?各相続人が潜在的な持分を持っている?今回の最高裁判所決定によって影響されるのか?
1000万円遺産の口座から無断に引き出された場合、金融機関に戻せ、という、訴訟は出来るのか?難しいとしても預り金となったという確認訴訟は出来るのか?
 
特別受益を考慮することができるのか?地裁で遺産全体を判断できないという要請もある一方で最高裁判所の決定でも実質的公平を図るべきであるという要請もあるがどうあるべきか?法律構成は?
 
相殺と差押
 
相殺について、相殺適状が相続開始前に発生した場合は?相続開始後は?
差押について可能か?転付命令や取り立ては可能か?
 
今後の影響・注目点
 
どのようなインパクトがあったのか?
などについて議論いただきました。

平成29年4月28日 相続専門研修(180人参加)

①相続における土地の評価

相続については、遺産の財産評価が重要になってきます。その中で、最も価値の高いことが多い土地の評価基準について、税務と具体的な事例に基づきディスカッションをいたしました。

<講演>
まず、税理士法人創経様の、中村友紀税理士から相続税評価についてご講演いただきました。
不動産価格の種類として、①時価である公示価格、②相続税評価額(公示価格の約8割)、③固定資産税評価額(公示価格の約7割)とがあります。このうち②相続税評価についてお話しいただきました。
土地の価格の評価について、登記上の地目と現況が異なる場合は?一筆の不動産が半分駐車場、半分畑の場合は?半分自宅で半分貸し家の場合は?これらの疑問点についての解説をいただきました。
遺産分割で、対角線で区分し三角形にしたり、無道路にすれば評価額が下がるのでしょうか?という点について不合理分割についての説明をいただきました。
二つの評価方式についての詳しい説明を頂きました。
  1. 路線価方式〜正面路線価、奥行価格補正率、側方路線影響加算率、借地権割合、借家権割合。
  2. 倍率方式〜固定資産税評価額×倍率
<パネルディスカッション>
続いて中村税理士に加え、福本剛弁護士と、相続専門研修チーム員小林唯希弁護士とで、パネルディスカッションを行いました。
二人の子どもの相続で、Aはタワーマンションの低層階(自宅)と会社本店所在地の宅地、Bはタワーマンションの高層階(賃貸中)を取得する事例について議論がなされました。
家庭裁判所の遺産分割事件で、時価で評価するとされます。高層階の方が時価が高くなります。これを固定資産税評価額を基準とすると高層階と低層階とで差がなくなります。更に賃貸中の高層階の方は借家権割合を減じることになります。そこで、いずれの基準によるか注意が必要とされました。
これを相続税について考えると、例えば1億円の高層マンションが相続税評価額3000万円となったとき、3割の相続税がかかるケースだと、7000万円×0.3=2100万円と、低層階と高層階とで納税額が変わるというケースの説明がなされました。
この点について、税制改正として、相続税について改正はなされませんでしたが、固定資産税については、60メートル以上 の新築物件で、2018年度以降に課税対象となる建物から適用されることになりました。50階と1階とでは13%くらい異なることとなったとのことです。
また、個人の土地を法人が借りる場合は、新築の際、無償変換届出が出ていれば、借地権割合減額はなされず、出ていなければ、50%の借地権割合の減額がなされます。無償変換届出を出さない方が良いかというと、無償で法人が借地できているため相当額の権利金の認定課税がなされ法人税が上がったり、法人の株も相続財産となる場合は株の価格が上がることになるので、無償変換届出をするように通常アドバイスしています、とのことでしたが、この点についても悩ましい問題が多数あるように感じられ、議論がなされました。
その他、様々な議論がなされ、充実した講義・ディスカッションとなりました。

② 相続と登記

1 講演

筒井孝志司法書士、三浦伸司法書士から相続と登記についての講演が行われました。

まず、登記記録の見方の解説をしていただき、次の3つの概念のご説明をいただきました。
  1. 権利に関する登記の申請は共同申請主義(不登法60)
  2. 相続による権利の移転の登記は単独申請主義(不登法63Ⅱ)
  3. 判決による登記は単独申請主義(不登法63Ⅰ)
また、次の各点についてご説明を頂きました。その他さまざまな注意点を指摘いただきました。
① 被相続人の同一性を証する情報
今までは住民票除票または戸籍・除籍の付票のみでしたが、廃棄期限を過ぎて除票等が得られない問題がありました。これが、先月3/23に被相続人名義の登記済証でよいということになりました。
② 判決正本等の被相続人と登記記録上の登記名義人との同一性が明らかでない場合
登記記録上の氏名や住所の文字に錯誤があったり、登記記録上の住所が住民票除票等に記載されていない場合等は、同一性が明らかでないとなり、相続人全員から印鑑証明書付きの上申書が必要となるとのことでした。弁護士としては非常に気をつけるべきことだと思います。
③ 平成28年通達について
被相続人の除籍等の滅失した場合は、今までは相続人全員による他に相続人はいないとの証明書が必要であったが、平成28年通達により、除籍等の謄本の交付ができないという市町村長の証明書で足りることになりました。
遺産分割協議前に他の相続人が、死亡して相続人が一人になった場合は遺産分割をすることはできないが、協議後に死亡した場合は、遺産分割事 協議証明書は認められると平成28年通達でなりました。
④ 遺産分割協議書作成後捺印や印鑑証明書の提出が拒否された場合
遺産分割協議書が作成された後、一人が捺印を拒否した場合、所有権確認の勝訴判決に理由中に遺産分割協議により不動産を相続したと記載されれば、単独申請で行うことが出来ます。
一部の印鑑証明が添付できない場合は、遺産分割協議書真否確認の勝訴判決があればよいこととなります。
⑤ 相続分の譲渡と登記について
相続分の譲渡と登記に関して、共同相続人ABCD(いずれも被相続人の子)のうちABCがその相続分をDに譲渡した場合、Dは、ABCの相続分譲渡証明書(印鑑証明書付)を添付して、D一人を相続人とする相続登記を申請することができる旨の説明がされました。
2 パネルディスカッション
 続いて、研修センター運営委員会委員井神貴仁会員が参加し、筒井講師・三浦講師と議論がなされました。
 まず、共同相続人として被相続人の子ABがおり、遺産分割未了の間にAが死亡し、Aの子CDEがAの相続財産をEの単独相続とする旨の遺産分割を行った場合に、EがBから相続分の譲渡を受けて、被相続人名義からE名義に登記名義を変更できるかという井神会員からの問題提起がなされました。
 これに対し、三浦講師から、1⑤の事例と異なり、数次相続が発生しているため、被相続人名義から相続分の譲渡を受けた相続人名義へ直接相続登記することができず、Ⅰ被相続人からABへの所有権移転登記、ⅡAからEへの相続を原因とするA持分全部移転登記、ⅢBからEへの相続分の売買又は贈与を原因とするB持分移転登記を行う必要があるとの指摘がなされました。
 Ⅲについては共同相続であるため、登記の時点で改めて、Bの3か月以内の印鑑証明と実印での捺印が必要となり、Bに相続分の譲渡を求めた際、これ以上Bは何もしなくてもよいなどと説明をしてしまうと、登記時のBからの協力が得られず、登記が出来なくなるため注意が必要であることに注意が必要です。
本講演も、このHPには書ききれないたくさんの非常に充実した内容が詰まっておりました。

平成29年3月31日 相続専門研修

事例検討会

 150名の弁護士が、20人ずつのグループにわかれ、それぞれ、事例検討会を行いました。今回は、遺言書について取り上げました。

 遺言書は、雛形通り作っていれば問題ないのですが、高齢の方が作ることもあり、遺言書があるのは良いけれども、その有効性が問題となることが非常によく見受けられます。
  例えば「この名古屋の家は次女にあげます」と言う遺言書が残されたとします。名古屋の家とは何か、どこなのか、事情とは誰なのか、特定することが困難と言うことが言えます。
  これを無効だから登記することができない、と言うのは容易いことです。このような不明確の遺言書を残さないようにしましょうと言うのもたやすいことです。
  しかしながら、我々弁護士が直面するのは、このような遺言書が残されて他に遺言がない場合、遺言者の意思としては児童にあげたいと言うことがはっきりしているにもかかわらず、遺言書の記載内容が不明確と言う理由で、この遺言書が全くなかったものと捉えるのが良いのかと言う問題意識です。
  今回の事例検討会では、このような様々な不明確である遺言書を取り上げて、これを何とかして有効と争うことができないのか、それともやはり無効と言わざるを得ないのか、ギリギリのところまで議論をしてあるべき解決策を考えると言うものになりました。
  その他遺産の評価や遺留分についての検討を含む、様々な、論点について、議論をしながら、経験を交流しました。
  相続専門相談も3年目になり、議論の内容も極めて専門的なものとなりました。

平成29年1月10日相続専門研修

相続専門研修も3年目になり、研修内容もさらに専門性の高い研修となりました。大阪弁護士会遺言相続センター副委員長の藤井伸介弁護士の協力をいただき、遺言執行について踏み込んだ研修内容となりました。参加者も、当地区最大規模の約270名にもなりました。

① 遺言執行を巡る諸問題〜遺言執行時における留意点を含めて

相続案件において、遺言執行の段階で適切に対応するのは極めて重要です。遺言を残しても執行が出来なければ、遺産を現実に取得することが出来ません。遺言内容が不十分であると、紛争が起きる、むしろ、その遺言の存在が故に紛争が起きてしまいます。

遺言執行の判決を行う裁判官も、公正証書を作成する公証人も、ほとんどが、遺言執行者になった経験はありません。遺言執行者ないし遺言執行者の代理人になる弁護士として、遺言執行者の立場を踏まえ、遺言を残していかなければいけないといえます。信託銀行が遺言執行者になっている事案においても、相続人間に紛争が発生した際は、信託銀行は、辞任をすることも多く、また、後任の遺言執行者も選任されないまま、相続人が財産を処分してしまうケースもあとをたちません。

弁護士が遺言執行者として、関与していく重要性が高い中で、弁護士自身遺言執行についての問題を把握していく必要があります。

大阪弁護士会遺言相続センター副委員長である藤井伸介弁護士に講演をいただきました。

遺言の無効主張をされた場合、遺言能力の調査を遺言執行者として積極的にすべきであり、その際、どのような調査をすべきであるか。調査ののち、有効と判断できた場合、内容証明を送って1ヶ月の期限を区切り執行を進める手法の工夫について。

遺留分減殺請求権が行使された場合の対応について、現在の最高裁判決では遺留分侵害の範囲は遺言の効力が認められない物権的効力があるとされているが、侵害の範囲をどのように定めるのか。東京高裁の判例によると遺留分減殺請求が行使されたことを遺言執行者が知った上で遺言執行をした場合、そのこと自体、遺留分侵害があるとされており、これについてどのようなリスクがあるのか。民法改正は、この点についても検討されているが、この趣旨は何か。

相続させる遺言と遺贈の違いについて、遺贈は民法に明記されているが、相続させる遺言の効果は最高裁の判断になされている。この最高裁の判断は、相続により承継すると明記するとされており遺贈と異なり意思表示によって承継するものではないとされている。このことから、どのように、また、どうして効果が異なってくるのか。

特定の不動産を相続させる旨の遺言をした場合、遺言執行者の現在的な権限の範囲にならないので、報酬の範囲に含まれないので、遺言執行者となる信託銀行の報酬を膨らませるためあえて、遺贈とする遺言を作り、このため相続人が受贈者に放棄を強要したため、紛争が発生したケース。

その他、様々の問題点について、詳しくご講義いただきました。

 

② 遺言執行を巡る問題の事例検討

遺言執行についての問題について、具体的な事例をもとにパネルディスカッションをする形で、検討しました。
大阪弁護士会遺言相続センター副委員長藤井伸介弁護士に加え、愛知県弁護士会研修センター運営委員会相続専門部会チーム員である四橋和久弁護士、高野和幸弁護士、後藤謙治弁護士とのパネルディスカッションを実施しました。
「家を渡します」という遺言であった場合、その家は何か特定されていません。この場合はどうなるのか。これで、登記出来るのか。家となっているが土地建物両方なのか。
「渡します」という遺言の場合、相続させるの相続になるのか、遺贈になるのか?
事業承継の場合に負債を承継せず相続放棄をしたいが、財産のみ承継する方法はないか?
遺言が無効の場合どうなるのか。自筆証書遺言が無効の場合、死因贈与契約書としての根拠として認められないのか。特別受益の持戻し免除という解釈の余地はないのか。
また、執行方法はどうなるのか。相続させる遺言となった場合に、別途相続人全員による遺産分割協議が成立した場合、有効なのか。判例理論との矛盾はないのか。民法907条との関連は。税務上の処理との関係は。相続財産管理人として、遺言を無視して、遺産分割協議書だけで処理してほしいと言われた時に、実務上、どうすべきなのか。民法改正の動向は。
これらの点を基礎に、他にも様々な議論がなされました。

平成28年9月29日相続専門研修

事例検討会

 150名以上の弁護士が、20人ずつのグループにわかれ、それぞれ、事例検討会を行いました。今回は、事業承継について取り上げました。

 今年の夏の相続専門研修のテーマが療養看護型寄与分についてであったことから、7月の裁判官とのディスカッションを踏まえ、踏み込んだ内容の研修となりました。
 従来は、療養看護型寄与分について、裁判所において認めてもらえるのが難しいという弁護士の経験もあるなかで、近時は、必ずしもそうではないという実例をあげて、具体的にどのような場面が認められるのか、東京家庭裁判所や名古屋家庭裁判所における取扱いの現状をふまえながら、これからの新しい寄与分のとらえ方や、類型化も含む、専門性の高い議論を行いました。
 各弁護士の様々な経験を踏まえたディスカッションとなり、密度の濃い研修となりました。

 

平成28年7月20日相続専門研修

相続専門研修も2年目になり、研修内容もさらに専門性の高い研修となりました。名古屋家庭裁判所の協力をいただき、かなり踏み込んだ研修内容となりました。参加者も、当地区最大規模の約320名にもなりました。

① 療養看護型寄与分にまつわる実務的諸問題

療養看護型の寄与分は、弁護士から見るとなかなか認められることが難しい。認められるとしても幾ら評価されるのかがわかりにくいと言われています。

冒頭に専門部会チーム員の酒井伸彦弁護士からの解説のあと、名古屋家庭裁判所家事部部長永井尚子裁判官を迎えて、熊田登与子弁護士、石川恭久弁護士をパネリスト。コーディネーターとして坪内友哉弁護士にて、療養看護型寄与分についてのパネルディスカッションを行いました。

半年、数ヶ月の療養看護でも評価されるのか。日額の評価基準として介護保険の額を用いるのか。相続人自身は全く介護をしておらずその配偶者のみが介護をした場合、寄与分として認められるのか、その法律根拠は。職業介護者ではない場合、0.7とか0.8とか調整額をかけるのは妥当なのか。要介護2以上でなければ認定されないのか。どこまでの証拠があれば認定出来るのか。

通常の文献には書かれていないケースについてまで、相当踏み込んだ議論がなされました。療養看護型寄与分についての理解が進みました。この研修の準備にあたり、裁判所と10回以上打ち合わせを重ね、裁判所の考え方を十分に理解した上で踏み込んだ議論ができるようにしました。相当画期的な研修となったのではないかと自負しています。

② 遺産分割事件の進め方のポイント

遺産分割の調停は、相続に関わる弁護士は、常に行うものですが、調停が実際、どのように決められていくのか。裁判所と調停委員がいつどのくらい評議を行うのか、弁護士以外の調停委員もいる場合に、工夫すべきところはないのか。調停委員は当事者から出された書面をいつ読むのか。調停委員を経験しないとなかなか知りえない情報です。

調査嘱託について単なる探索的なものは難しいとしても、どのような場面であれば行ってもらえるのか。葬儀費用や債務を建て替えた場合や果実など、遺産の範囲に含めるという合意ができなかった場合はどうなるのか。遺産の評価として固定資産税評価額で合意できなかった場合どうなるか。鑑定費用の額はどの程度か。戸建ての建物1棟30万円、収益物件1棟40万円くらいとして、建物4棟と対象不動産が多い場合や、寄与分、特別受益がある場合の評価時点は分割寺ではなく相続開始時となるが、この2時点方式の場合の鑑定費用はどの程度か。
審判段階は別として、調停段階でどのような場合に特別受益が認められるのか、不動産以外の特別受益が調停で認められるときはどのような場合か。寄与分はどうか。
中間合意について、調書に取らないことも多いが、合意が破棄されないように中間合意を調書にとったほうがよいのか。電話会議の方法の実態。調停条項案の書面による承諾や、調停に変わる審判の工夫について。
名古屋家庭裁判所の調停委員をされている萱垣建弁護士に、専門部会チーム員の森澤史郎弁護士が尋ねる形の中で、非常に実務的な専門性の高い研修となりました。

平成28年5月23日 相続専門研修

事例検討会

 150名以上の弁護士が、20人ずつのグループにわかれ、それぞれ、事例検討会を行いました。今回は、事業承継について取り上げました。

 事例は、和菓子製造販売を営む会社の事業承継についてです。
 預金3億円、自宅土地路線価8000万円固定資産税評価額7000万円、自宅兼事務所固定資産税評価額2000万円の資産を有し、妻、長男、長女を有し、長男は同社の取締役、長女は結婚し東京に行き愛知県に帰る予定はない。
 このような状況の中で、経営権を1人に集約する方法や、人的種類株式〜会社法109条2項〜の活用、個人資産の相続についてどのような遺言書を書くと良いのか、税務上の観点も踏まえて議論が行われました。
 平成25年9月25日東京地裁立川支部の目的の正当性と手段の相当性がなく人的種類株式を定めた定款変更の株主総会の議決が無効となった判例の評価や、人的種類株式のリスクについても、議論がなされました。
 また、中小企業経営承継円滑化法における遺留分減殺請求の対象から外す制度の活用実例や、平成28年4月1日施行の改正状況の説明もなされました。
 参加者には、裁判所、公証人の経験者の方もいらっしゃり、相当、専門的な議論が交わされました。
 各弁護士の様々な経験を踏まえたディスカッションとなり、密度の濃い研修となりました。

平成28年4月14日相続専門研修

①相続をめぐる税理士との効果的連携

相続問題に対応するために、税理士の方との連携も重要です。税理士法人エスペランサ吉田博幸先生からの詳細な説明と、そのあとの同吉田税理士、藤本慎司税理士と、森戸尉之弁護士、坂口斗志弁護士とのパネルディスカッションでは、具体的な事例に基づき、弁護士の発想と税理士の発想の違い、税法、民法を踏まえた、対応方法について研鑽しました。
⑴暦年贈与⑵子ども、孫の生活費、教育費の負担⑶教育資金の贈与⑷結婚、出産、子育て資金の贈与⑸住宅資金の贈与⑹相続時精算課税⑺おしどり贈与の活用などの議論、具体的にどの程度の手法での税効果があり、法律上、どのようなリスクがあるのかの議論がなされました。

②事業承継

事業承継については、円滑な承継のために、法務上、税務上たくさんの問題があります。弁護士、公認会計士、税理士の連携のもと、対応していくことが重要です。まず、原武之弁護士に、事業承継事例で考える法務上、税務上の留意点につき、ご講演いただきました。種類株式の手法や会社分割、事業譲渡の手法などのメリット、デメリットについて、ご講演をいただきました。
そのあと専門研修チーム員佐々木保臣弁護士をコーディネーターとして、原弁護士のほか、株式会社ワンズブレイン・パートナーズの遠藤彰一公認会計士、佐々木康行公認会計士を交えたパネルディスカッションを行いました。
具体的な場面を前提に、無議決権配当優先株式の利用、非上場会社の株式の評価額の手法の議論をしました。また、時間をかけながら承継させる場合の、属人的株式をもちい、オーナーが1株、息子が499株取得し、オーナーの株の議決権を当初1株あたり2000個の議決権という属人的株式として、年々1000個、500個、300個、1個と減らしていく手法の紹介がありました。定款変更は必要だか、種類株式と違い、登記事項ではないので、外部に知られずに、承継ができること、拒否権があるだけの黄金株よりも会社経営として使い勝手もよく、段階的承継も可能であるので、ケースによって使える手法との議論がなされました。
また、会社分割の事例では、濫用的会社分割とならないような工夫や、適格分割、非適格分割の違いの中での課税関係などについても、議論が行われました。設立時期と課税関係の問題もあり、書類不備で受け付けられないというミスがないように司法書士との連携の大切さも語られました。

平成28年2月1日相続専門研修

事例検討会

弁護士20人程度を1組として、ゼミ形式で、具体的な事例について検討会を行いました。

今回は、具体的な相続の事例で、遺言能力についてどのように事情聴取していくか、問題が生じないための調査方法、証拠化の方法、また、具体的な相談や交渉のスキルについての意見交換がなされました。

平成28年1月14日相続専門研修

相続専門研修第3回は、遺言能力についての研修を行いました。高齢になってから遺言を作成することが多いことから、遺言を残す際に、その判断能力が低下してしまっているという遺言能力の問題が生じることは非常に多いです。このテーマについて、医師、公証人の方を交えて研修を実施しました。これも、非常に興味深いテーマであり、300人を超える弁護士が参加されました。

① 認知症に関する医学的考察と遺言能力

前半は、認知症の専門医である尾張北部医療圏認知症疾患医療センター・センター長の柴山漠人医師を招いて、認知症とは何か、認知症の原因疾患等についての講演をいただきました。また、研修チームの安田昴央弁護士から遺言能力についての発表を行いました。

後半は、柴山医師、高齢者・障碍者総合支援センター運営委員会委員山下陽子弁護士、研修チーム髙野和幸弁護士を交えて、遺言能力についての気づき、確かめる、証拠に残すという各点についてのパネルディスカッションを行いました。

②遺言無効確認請求訴訟における効果的な主張・立証

前半は、元福井地方・家庭裁判所所長で現在葵町公証役場の岩田嘉彦公証人を招いて、遺言無効確認請求訴訟において、特に遺言能力の有無が争点とされた場合を想定した主張・立証方法について講演をいただきました。また、研修チームの四橋和久弁護士から、遺言無効確認訴訟についての発表を行いました。

後半は、岩田公証人、高齢者障害者総合支援センター運営委員会委員安積孝師弁護士との間でディスカッションが行われました。遺言能力の有無の判断や、遺言能力に問題がありそうな方が公正証書を作る場合の対応・工夫についての議論がなされました。

 

平成27年8月21日相続専門研修

事例検討会

弁護士20人程度を1組として、ゼミ形式で、具体的な事例について検討会を行いました。

今回は、具体的な相続の事例で、不動産、動産、非公開株式等の評価の手法、税務上の評価の手法との違いについて、また、具体的な相談や交渉のスキルについての意見交換がなされました。

平成27年8月4日相続専門研修

相続専門研修第2回は他仕業との連携を図るべく、相続税、事業承継をテーマに研修を行いました。相続税の改正があることもあり、また、事業承継についてという、興味深いテーマでもあったことから、今回も、300人を超える弁護士が参加されました。

① 相続税と弁護士業務

相続税の改正を踏まえ、弁護士業務を行うに当たって注意すべき相続税の問題について研修を実施しました。

前半は、名古屋国税局課税第1課 資産課税課 審理専門官の野村徹様に講演をいただき、研修チームにて、相続税の全体像、相続における弁護士業務と税務のタイムスケジュールについての研究発表を行いました。

後半は、野村様に加え、鈴木典行弁護士、研修チームの樋田嘉人弁護士、葛西良亮弁護士を交えてのパネルディスカッションを行いました。

② 事業承継と相続

事業承継を円滑に行うことは、法律解釈や実務上の工夫、会社法や税法等の知識等の総合的な知見が問われるところです。そこで、弁護士と税理士の方との連携を図るという意味合いもあり、両者による研修を実施しました。

前半は、山田尚武弁護士、税理士法人トーマツ樋口亮輔税理士による講義、および、研修チームによる非上場株式の株価評価に関する裁判例の研究報告を行いました。

後半は、山田弁護士、樋口税理士に加え、加藤裕介税理士、研修チームの田中紀子弁護士を交えてのパネルディスカッションを行いました。

平成27年5月1日相続専門研修

事例検討会

弁護士20人程度を1組として、ゼミ形式で、具体的な事例について検討会を行いました。

今回は、具体的な相続の事例で、どのような手法で、相続財産の探索を行い、また、寄与分や逸失利益の主張をどうするのか、また、具体的な相談や交渉のスキルについての意見交換がなされました。

平成27年3月16日相続専門研修

相続専門研修第1回であったこともあり、開会にあたり、愛知県弁護士会会長のあいさつから始まり、当地区の研修としては最大規模の400人を超える弁護士が参加され、その実施の際も、TV局や新聞社も取材に来られていました。

① 相続財産の探索

相続案件において、相続財産の探索をすることは極めて重要です。相手が相続財産を隠している場合に、どのように探索していけばよいか、その手法についての研修です。

前半は、蜂須賀太郎弁護士による講義と、専門研修チーム員田中健人弁護士による他の法律事務所への探索手法についてインタビュー結果、自治体、金融機関その他の探索方法についての調査結果の発表がされました。

後半は、蜂須賀弁護士に加え、元弁護士照会調査室員である服部郁弁護士、研修チーム員坪内友哉弁護士とのパネルディスカッションを実施しました。

② 裁判所から見た寄与分・特別受益

寄与分・特別受益は、実務家が一番関心のある相続の論点です。これを裁判所から見てどのように判断・対応すべきかについての研修です。

前半は、名古屋家庭裁判所丹下将克裁判官、同書記官による講義がなされました。

後半は、丹下裁判官に加え、高橋恭司弁護士と、専門研修チーム員の山崎拓哉弁護士、熊田健一郎弁護士、平田志野弁護士とのパネルディスカッションを実施いたしました。